視点



水面に富士山が映る「逆さ富士」は有名ですが、大抵の場合、そこに映る逆さ富士はあくまでも富士山であり、「日本一大きなどんぶり」とは思いません。
ましてや、逆さ富士は日本一低い山だ、なんて言う人もあまりいないでしょう。
ですが、ただ富士山を逆さまにしただけでは、それでは「目線」を変えただけで、「視点」を変えたとまでは言えません。

昔から、「結婚と離婚の目的は同じ」だと言われます。
インとアウト、方向が真逆なのに、その目的はどちらも「幸せ」になるため。
見る方向を変えるだけでは、ただ目線を変えただけ。
視点を変えれば、真逆のものにも共通した目的や、新たな役割を見つけ出すことができます。


学校は教育の場ですが、それは、「子育て」という大きな枠組みの中のひとつにすぎません。
どういう人間に育てるのかで、教育の方法も場所も変わります。
もちろん、「親がいなくても子は育つ」ものですが、できれば、親と学校と地域と社会が一丸となって子どもを育てていくことが理想です。

毒親や親ガチャという、背筋がゾッとするような言葉が普通に飛び交うこの頃ですが、確かに世の中には、現実から目をそらし、問題と向き合おうとしない親もいます。
もしかすると、まっすぐ向き合うことへの耐性力がなく、なんとなく自分をごまかし、色んな方法や力を借りながら「それでも自分は幸せだ」と言い聞かして、雨がやむのをじっと待っているのかもしれません。

でも、どれだけ目を背けても問題はなくなりません。
それどころか、あっちを向いている間にどんどん増えていくこともあります。
見たいものだけを見ることで解決したと思い込む人も多いと聞きますが、そんな環境下で育つ子ども達には何の影響もないのでしょうか。
傘のおかげで雨に濡れずに済んだとて、雨がやんだわけではありません。

子どもが変われば親も変わる、とも言いますが、それだけでは足りなくて、追いつかない時代になったのかもしれません。
もっと親に、家庭に、直接アプローチする方法が求められているような気もします。

おも校でも、以前から親御さんとの自由で気さくな対話の場として、「おも茶会」を開催してきました。
どんな問題であろうとも、必ず解決策があります。
光だけの場所も、影だけの場所もありません。
どうすれば目を背けずに、それらを解決していけるのかを、もっと伝えたいし、届けていきたい。
そういう意味でも、今後はこのおも茶会の役割がもっと重要になってくるのではないかと思うので、さらに力を入れて取り組んでいきたいと思います。


先の結婚と離婚の例えがインとアウトだとすれば、ポジティブとネガティブはアップとダウン。
真逆の方向ですが、これも視点を変えて見てみれば、どちらにも、目の前の問題を直視できない耐性力のなさや自己防衛の気配を感じ取れます。
見たくないものにはフタをして、見たいものだけを見て生きていければ幸せなのかもしれません。
ですが、誰かがそうすることで、違う誰かの負担が増えていくことを、どれだけの人が理解しているでしょうか。
おも校の説明会で何度もお話してきたことですが、不登校の問題は、ごくごく普通に学校に通っている子ども達のことを抜きにして語られがちです。
この子達が将来、どれだけのものを背負わされるのかを、私たち大人はもっと想像してみるべきでしょう。

日本人のアート力は世界でもトップクラスです。
優れたアーティストもたくさんいます。
ですが、目の前の問題と向き合い、解決方法を見つける「デザイン力」が足りていません。
インとアウト、アップとダウン、不登校の子ども達と学校に通っている子ども達。
ご一緒に、目線ではなく、視点を変えて取り組んでいきましょう。