近況報告







三重に戻っています。
近況報告を兼ねて、ご報告。

1月12日に、デザイン教育プロジェクト「DESIGNED BY CHILDREN ~デザインを手にいれたコドモたち~」の全5回のうちの3回目の授業が行われました。
3回目のテーマは「変化」でした。
僕がデザイナーとして、対象となる物事の「本質」を見つけるためにやることのひとつに、「キャラづけ」や「特徴やキーワードのあぶり出し」とかがあります。
問題の本質はどこにあるのか、それを見つけるためには、表面だけを見たり、安易にひっくり返してみたりするだけではうまくいきません。
そういう時は、思い切って、全く別の物に置き換えて考えてみることがあります。

そこで3回目の授業では、「空」「ビル」「群衆」の3つのテーマを、それぞれ「料理」に置き換えてみることにしました。
空には雲があり、その雲はわたがし(わたあめ)みたいだ、という誰でも思いつく簡単な置き換えの入口を用意しておくことで、奥へと進みやすいのではないか、と考えました。

案の定、雲をわたがしに置き換えた子どももいましたが、「ビル」を、「形」や「作るコストが高い」や「倒れない工夫」などのキーワードを探しだし、「ウェディングケーキ」に置き換えてみたり、「群衆」を、「見た目」や「臭そう」や「ゴチャゴチャ」などのキーワードを探しだし、「納豆」に置き換えてみたり、なかなか面白い結果となりました。

ここで大切なのは、置き換えた答えを見つけることではありません。
なので、「わたがし」や「ウェディングケーキ」や「納豆」を探し出すことではなく、問題に関連するキーワードをどれだけ見つけることができるかが大切なポイントです。

問題を擬人化してキャラづけしてみたり、特徴やキーワードをたくさんあぶり出すことで、問題の「本質」を見つけ出す。
商品のパッケージをデザインする時も同じです。
その商品には、どんな服を着せてあげるのがもっとも正しいのか、それを見つけ出すためには、その商品について、深く深く理解する必要があります。
そのためのキーワード探しであり、それを疑似体験してもらったわけです。


1月18日は、レクサスが主催する「レクサス・ニュー・タクミ・プロジェクト」の最終プレゼンが東京で行われました。
この1年間、レクサスにバックアップしてもらいながら、全国から選出された52名の匠達が新たなプロダクトの制作に挑戦してきたわけですが、おそらくは最年長ではないかと思う僕にとっても、大変いい経験をさせてもらったなあと思います。

自信が強まったポイントもあれば、大いに反省すべきポイントもあり、いくつになっても、新しい何かに挑戦できること、そしてそこから多くのことを学べることに、心から感謝したいと改めて感じました。
ここで得た経験を無駄にせず、今後の活動に活かしていきたいと思います。
来年以降もこのプロジェクトは続くそうですので、第2期生の方々には、大いにがんばってもらいたいなあと思います。


1月19日は、デザイン教育プロジェクト「DESIGNED BY CHILDREN ~デザインを手にいれたコドモたち~」の全5回のうちの4回目の授業でした。
4回目のテーマは「解決」。
自分達が暮らす地域が抱える、「少子高齢化」「遊休農地(放棄地)」「空き家」「獣害」「若者の地元離れ」などの問題に対して、これまで3回にわたって学んできたデザインの視点を活かし、その解決策を考えてみる授業です。
全5回のうちで、一番難しいテーマではありましたが、意外にもみんな、楽しんでやってくれたのでホッとしました。
何の解決策にもならない答えもありましたが、なかなか面白い発想もありました。

例えば、「少子高齢化」のテーマに取り組んだ子どもたちから、若者が減って老人だけになり、労働力が減るのであれば、ロボットに働いてもらって、それを観光資源にして若い人達を呼び込めば、労働力も補えるし、若者も増えるのではないだろうか、という意見があったので、ちょっと意地悪な質問をしてみました。
「ロボットが主の労働力になった町に若者が移住してきても、今度はその若者達の仕事がないよね」、と。
あ~そうか~とちょっと落ち込む子ども達。
そこで、ロボットが働き、人々も収入を得る方法を考えてみたらどうか、と提案してみました。
ヒントをくださいと言うので、アパート経営を例にして、「貸す」ことで収入を得る方法もあるよね、と話しをしました。
そこから色々考えて、ロボットをオーナー製にして、そのロボットを企業に貸し出して対価をもらえば、収入が得られるのではないか、となりました。
つまりは、それぞれの作業用ロボットの開発や制作に個人オーナーが出資して、それを企業に貸すことで、賃借料が発生する、という仕組み。
企業もロボット開発のコストを抑えることができます。
これもなかなか面白いアイデアだなあと思います。

さらに、「遊休農地」のテーマに取り組んでいた子ども達からもヒントをくださいと言われたので、言葉の捉え方を変えてみたらどうか、と提案してみました。
「遊んでるし、休んでる、ダメダメな農地」ではなく、「遊べるし休めるイケイケな農地」と捉えてみることで、何か見えてくるものはないかな、と。
そこからは、さすが子ども達、遊びのこととなると色々なアイデアが出てきました。

そして、僕が個人的にすごく嬉しかったことは、毎回、授業の感想を書いてくれるんですが、その中で、ある女の子が「デザイナーになってみたい」と書いてくれたことでした。
この教育プロジェクトは、決して職業としてのデザイナーを育てることが目的ではありません。
日々、自分達の身の回りに起こる色々な問題や課題に対して、デザイナーの視点やデザイン思考がその解決の役に立てること、そして、視点を変えてみることで、自分達が暮らす町の本当の価値に気がついて、もっともっと地元を好きになってくれるんじゃないか、というのが目的です。
サラリーマンになっても、公務員になっても、自営業でも、アーティストでも、どんな職業についたとしても、「デザイナーの視点」は、何かと役に立ちます。
だから、デザイナーを育てたいわけじゃない、と本気で思っていますが、実際、デザイナーの視点やデザインのことを学んだことで、自分もデザイナーになってみたくなった、と言ってもらえると、やっぱり嬉しいわけです。単純ですが(笑)。


さてさて、次回は全5回の最終回。
僕が教壇に立って行う授業です。
これまでの4回を総評し、今、僕が子ども達に伝えたいことを、まっすぐに話してきます。
それを受けて、子ども達は今度はどんな感想をもってくれるかが、本当に楽しみです。


お金にならない、いつか花を咲かせるかもしれないたった一粒の種を蒔く、そんな弱々しいプロジェクトですが、来年以降も続けていけるように、最後までしっかりと走り抜けたいと思います。
外国人には虫の声が聞こえない
「違うがゆえに独創的なものが生まれる」

本当にそう思う。

日本はデザイナーの数が世界でもっとも多い国だけど、デザインのレベルは低い、とは昔からよく言われてきたこと。
でもこれって、あがる土俵を間違えているからだと僕は思う。

アインシュタインの有名な言葉がある。
「人は誰もが天才である。しかし魚に木を登らせようとするのなら、その魚は一生、自分が愚かだと信じて生きていかなくてはならないだろう」。

日本人には日本のデザインがある。
この国にも、誇るべき文化がたくさん残っている。
日本のデザイナーは、そこに立ち返るべきだと思う。
そしてそれこそが、海外が日本のデザイナーに日々求めていることだから。


http://www.mag2.com/p/news/233784