伝統と発展



ファッションには縁もゆかりもない人生を送ってきたし、まるで興味もない僕が、「VOGUE」を定期購読していることはこれまでにも何度かお伝えしてきた。

思うにファッションとは、カルチャーや時代のメッセージを伝える最も優れたメッセンジャーだと思う。

昨日もネットニュースの中で、シースルーは、多くの人が「自己開示(見られたい)欲」を求めている時代に流行する、とあったことからも、その時代の匂いや情緒を色濃く反映しているものなのだなと、ど素人の僕のものすごく浅い考えだと思うけど、そう感じる。

折しも、今号のVOGUEのテーマは「TRADITION AND PROGRESS/伝統と発展」。
カバーには、「伝統は可能性の宝箱」とある。

いつも楽しみにしている編集長のコラム欄には、「伝統があるからこそ進歩もある。(中略)人こそが伝統をつなぎ、新たな伝統を紡いでゆく存在である。」と書かれていた。

ファッションが「時代」を映す鏡であるなら、ファッションが伝統技術や伝統工芸からいまだに多くのことを学び得ようとしていることに心が躍る。
伝統工芸の再興を夢見る僕にとって、ファッションは多くのヒントを与えてくれる。
出来ればその流れで僕の服のセンスも向上すればいいんだけど、残念ながらそれは別の問題のようだ。

以前、ネットで、VOGUEは商業主義の三流雑誌だと言うコメントを見たことがある。
VOGUEが三流なのか、では何が一流なのかは僕にはさっぱりわからない。

学びの種は無限なのだから、VOGUEからでも、町内誌からでも、学べることはたくさんある。

例えば今号のVOGUEの中で、色々な伝統工芸品を、種類別ではなく、ポップ、ナチュラル、ミックス、モダンなどのカテゴリーで分けて紹介していた。
これは、伝統工芸のお店を作る際にも大いにヒントになると思う。

松阪木綿か伊勢型紙か、ではなく、ポップかモダンかで分けてご紹介することで、新たな魅力の発見に繋がるかも知れない。
まあ、そんな単純なものではないとお叱りを受けるかも知れないけど、それぐらい単純にすることで見えてくることもきっとあると思う。
価値があるなら、未来はある。



昔から、それこそ子どもの頃から、家に余ってる材料で時々何か作る。
今時、安くてもっとかっこいいものがいくらでも売ってるけど、できる限り自分の手で作りたい。
プロじゃないから上手ではないけど、「自分の手で作ること」は大切にしたいと思う。

僕にとっては、パソコンでデザインするのも、DTMで音楽を作るのも、大工道具で何かを作るのも、全て同じ感覚。
料理は一切できないけど、20年以上髪の毛も自分で切ってるし、ガス以外の工事は全て自分で行える。

だからこそ、職人をリスペクトする。
彼ら彼女らが生み出す匠の技と至高の品々に大いなる憧れを抱きながら、下手くそな自前の家具を、でも心から楽しんで作る。
伝統工芸に心が惹かれるのは、下手くそな自分だからこそ実感するモノづくりの素晴らしさと大変さが伝わるから。

匠の技を途絶えさせてはいけない。
伝統工芸でインターネットはできないし、伝統工芸で4Kの動画は撮れない。
でも、だからこその価値がそこにあるはずだし、それを感じられるうちは、自分は大丈夫だと信じることができる。

日々、妄想はどんどん広がる。
三重県の伝統工芸と職人の技が生み出す品々だけを売るショップを開きたい。
でも決して、いかにも伝統工芸です的な空間ではなく、一方的な情報や歴史の押し売りショップでもない。
職人の匠な技を、おもちゃや雑貨に変えただけのお店でもない。
伝統工芸の雰囲気だけを売るお店でもない。
時代錯誤なコンセプトショップでもないし、レトロを売りたいわけでもない。

伝統工芸にそこまで興味がない人も、時々行きたくなるお店。
職人たちと共に生み出す、時代の感覚を宿した新しい魅力的なプロダクト達。
環境に配慮した取り組み。
そこに行くことが、そこにいることが、そこで商品を買うことが、そこの商品を持っていることが、ほんの少し誇らしげで、ほんのちょっと心地よくなるお店。

伝統工芸界のMITメディアラボ的な役割も担いたい。
最新技術がふんだんに使われているお店。
売り方や買い方も、新しい仕組みがあるお店。
アーティストとのコラボ等を企画したり、新たな製品の制作を依頼して、それぞれの伝統工芸をアップデートしていきたい。
そこで働くスタッフは、商品の販売員であると同時に、伝統工芸を未来へと繋げていくための研究員であり、自らが革新を起こすクリエイター。
そのための教育や指導を積極的に行っていく場所。

大切な人を連れていきたくなるお店。
大事な人へのとびっきりの贈り物が見つかるお店。
お子さんも入れるお店。
知識と知性が身につくお店。
いつも新しい発見があるお店。
人の温もりや暖かさを感じられるお店。
視野が広くなるお店。
ゴミが出ないお店。
町の自慢になるお店。
値引きやセールをしないお店。
色々な体験ができるお店。
背筋をちょっと伸ばしたくなるお店。
いつも清潔なお店。

大好きな人と、一緒に行きたいお店。
大好きな人が、よく行くお店。
そんな、三重県の伝統工芸だけを集めたショップを作りたい。

31年前の旧車に乗りながら、最新のガジェットも大好き。
MacもiPhoneも使うし、WindowsもAndroidも使う。
白黒映画も大好きだし、最新のSF映画も見逃さない。
そんな僕だからこそ作れる、伝統工芸のショップがきっとある。

でも多くの人が、そんなお店は作れっこないと言う。
作れても続けていけないだろうと言う。
そんな事業に誰も手を貸さないし、一番手を出してはいけないジャンルだ、と教えてくれた人もいる。

ほんとにそうなのかな。

下手くそな僕の家具も、愛着を身にまとい、今日も僕の役に立ってくれている。
その健気な姿を一度でも愛してしまったら、それは一生の宝物になる。
この気持ちには、きっと価値がある。
価値があるなら、未来は必ずあるはずだ。

いや、未来こそ、自分たちの手で作るもの。
モノづくりは、ミライづくりなのだ。
ビジョン



経営にビジョン(理想)は欠かせません。
ですが、ビジョン(理想)を考えるのが苦手だという経営者の方は意外と多いです。
思うに、それはきっと「妄想」への抵抗感があるのではないかと思うんです。

例えば、「どこでもドア」は漫画の世界の話であって、本気で語るものではない、と思いがちだったりしますが、でも、全ての未来は、「あんなこといいな。できたらいいな。」から始まるものです。

妄想を語ると、それを笑う人がいます。
その積み重ねから、妄想を話すこと、そもそも妄想すること自体が恥ずかしいことだと思う人が増えてしまったのかも知れません。

僕はスタッフにもクライアントさんにも、「全ての可能性を否定しないこと」と言い続けてきました。
多くの人が、すぐに「それはない」と色々な可能性をすぐに否定してしまいます。
でもそれでは、当たり前のものしか生まれません。

例えば僕は、毎日黒い服を来て、31年まえのグレーのサファリに乗って、現在の家の内装も基本グレー。
そんな僕が新しく家を建てるとして、そんな僕に、もしも建築家が「外壁はピンクにしましょう!」と笑顔で言ってきたとしたら、普通なら食い気味で「あり得ない!」と即刻却下するでしょう。
でも、最終的には選ばなかったとしても、まずは否定しないこと。

実際にピンクにしたらどうなるのか。
悪いことは大体創造がつくけど、良い面があるとしたら、それはどんなことだろう。
この僕にピンクを進めてきた建築家の狙いは何だろう。
そうやって、全ての可能性をまずは否定せずに受け止めてみる。
そうすることで、なぜ僕は黒い服ばかり着るのか、なぜグレーが好きなのか、僕は何を求めていて、何を欲しているのか、その理由は何なのか、そうやって、解像度がどんどんあがっていって、自分のことがもっとよくわかってくるし、それをどんどん言語化できるようにもなっていきます。

人が想像できることは、人が必ず実現できる。
(ジュール・ヴェルヌ)

ビジョン(理想)を思い描くことは決して怖いことではありません。
だからもっと自由に妄想しましょう。
あっでも、ビジョン(理想)も大事ですが、「現在値(地ではありません)」を正しく把握することはもっともっと大事です。
これについてはまた改めて。
ブランディング



ずいぶん前から、打ち合わせの時は決まって、どこに向けて売るか、ターゲットはどんな層だ、という話も大事だけど、その前に、この子(商品だったりサービスだったり)に一番似合う服はどんな服なのかをちゃんと考えましょうよ、という話をいつもする。

つまり、マーケティングも大事だけど、それ以前にもっとブランディングを大切にするべきだと、すいぶんと前から言い続けてきました。
もちろん、マーケティングがダメと言っているわけではなく、マーケティングをしてからブランディングではなく、これからはその逆の順序のほうが時代に合うのではないか、というのが僕の考えでした。

ですが世の中は、どこもかしこもマーケティング主導で進んでいるので、はいはいと相手にされないことが多かった。
でも、こんなやり方がずっと続くわけがない、と本気で思っていたので、飽きも懲りもせず、そう言い続けてきました。

そして今、その想いはより一層強くなっている自分がいます。
ただし、「ブランディング」を間違って捉えているデザイナーさんも企業さんも多いのが日本。
だから今いち効果が出ない、と思われてしまうのかも知れません。

ちゃんとブランディングすれば、必ず効果が出る。
僕の実績の中にも、まずはブランディングをちゃんとやってから、そのあとでマーケティングを実践して、売り上げが3倍にも4倍にもなった商品がいくつもあります。
大切なのは、ブランディングとマーケティングのバランスと順番とタイミング。
これからの時代は特にそうだと感じます。
だからこれからも、飽きも懲りもせず、言い続けていきたいと思います。
2021.10.16 09:46 | Permanent Link | 日記・デザイン